「児童養護施設 クリスマス・ヴィレッジ」vol.3


「さぁ~スパーリングの準備をしようぜ。リック」と声を掛けた。
リックはおもむろにポケットからテーピングを出し、手に巻きつけ……


「Hey, サカモト。バンデージは?」


この男。。。やる気満々である。
するとカメラマンのえびちゃんが、


「リック、すごい気合いですね」


と少々心配げに、そして少し興奮気味にカメラを構えた。
僕も徐々にボルテージが上がり、緊張感が湧いてきた。



第1R 開始。



いきなりヒートアップ。


実は、16年前に闘ったときにもこのボディーブローを何発ももらい、試合翌日には血尿が出たんだ。
こんなことは、後にも先にもこの時だけ。

そんな記憶が蘇った。

「相変わらずいいボディーブローを打つな」と思った。

16年前には、リックは右肩を故障しており、得意の右ストレートをほとんど打てずにいた。

16年後のこの日リックの右ストレートを受け、
あの時自分に打ち込めなかった悔しさが込められていた気がした。

この日のスパーリングで、一番効いたパンチであった。




僕も負けじと、リックの左ジャブに合わせて、得意の右クロスカウンターをヒット。


ホールなどで会ったときや、表彰式で会うことはあった。

しかし、お互いいつ再戦するかもしれない、という思いを持ち続けていたので、
目も合わさず、挨拶も無く、すれ違うだけだった。

お互い引退をし、勝負する関係ではなくなった。

だからこそ、友情という形で再会出来たことが、なにより嬉しい。

僕が思いを込めて活動しているSRSボクシングセッションに、
快く協力してくれたリックの熱い気持ちとハートに、心から感謝を伝えたい。




どうもありがとう。




この日、クリスマス・ヴィレッジに「リック吉村」と「坂本博之」のサイン色紙が飾られた。

次回へ続く。